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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)125号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 前示訂正前と訂正後の本件考案の要旨によれば、本件訂正は、本件訂正前の本件考案の要旨中の<1>「該プリント基板を筐体内に支持固定する」を<1>´「プリント基板を基板支持部を介して上記筐体内底面に水平状に載置固定し」と訂正し、また、同要旨中の<2>「該コンタクトピンの延長部を回路部が取付けられたプリント基板の端子部に固着し」を<2>´「複数の接栓座環状外部導体内に位置する絶縁体の一端から突出するコンタクトピンの各延長部を上記プリント基板の各入出力端子部孔より基板表面に貫通突出せしめ、(中略)コンタクトピンの延長突出部とプリント基板の端子部とを筐体内で半田接続する」と訂正することを主眼とするものであり、訂正前のものと訂正後のものとを対比すると、<1>と<1>´はいずれもプリント基板の筐体に対する固定態様に関するものであるが、<1>´は<1>のような単なる支持固定ではなく、プリント基板を基板支持部を介して水平状態に載置固定するようにしている点で、<1>の構成要件を具体的に限定する趣旨であり、また、<2>と<2>´はコンタクトピンの延長部のプリント基板の端子部に対する固着態様に関するものであるが、<2>´は複数のコンタクトピンの各延長部をプリント基板の各入出力端子部孔より基板表面に貫通突出させ、この部分を半田づけし、端子部に固着するようにしている点で<2>の単なる固定を具体的に限定したものである(右限定は、コンタクトピンが単数の場合と複数の場合の双方を含む<2>を複数の場合に限定した点を含む。)から、本件訂正は実用新案法第三九条第一項第一号にいう「実用新案登録請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる。しかしながら、右の事項を目的とする訂正も、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであつてはならないことは同条第二項に定めるところであり、右規定が、実用新案の登録がされて権利が設定されて後、実用新案登録請求の範囲に記載された当該考案の構成に欠くことができない事項の内容、範囲、性質等を変更して、訂正審判の前後で実用新案権の効力範囲に差異をもたらすことは、法的安定性の見地から許されないとする法意に出たものであることに徴すれば、たとえ訂正審判の請求の趣旨が実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであつても、訂正前の考案の目的の範囲を逸脱し、該考案において認識されていなかつた新たな技術的課題を設定し、その解決のために考案を提示しようとする場合には、右規定に違背し、許されないものというべきである。

本件において、審決は、前記<1>から<1>´及び<2>から<2>´への訂正(審決にいう「(1)項の訂正」)は、「訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された考案の目的、効果を変えるものと認められる。とすると、上記(1)項の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものと認められる。」と認定、判断し、原告はこれを争うので、以下に検討する。

2 成立に争いのない甲第三号証(本件公報)によると、本件訂正前の本件考案は、筐体に同軸ケーブルが接続される回路収容機器、特にその同軸ケーブルの接続部の構造に関する(本件公報の考案の詳細な説明の項第一頁左欄第三五ないし第三七行)ものであり、「同軸ケーブルと回路収容筐体との接続は一般に接栓および接栓座によつて行なわれ、接栓は同軸ケーブル側に、又接栓座は筐体側に予め取付けられている。従来の接栓座には第1図(本判決別紙図面(1)の第1図)に示すものが用いられ、この図で1は回路収容筐体、2は該筐体と一体に形成された接栓座の環状外部導体で、外周面には同軸ケーブル側接栓の外部導体側部材との螺合用ネジ部2aが設けられる。この外部導体2の内部にコンタクトピン3を取付けた絶縁体4を嵌挿し、該絶縁体4の段部4aを筐体1の段部1aに突き当てる。この状態では絶縁体4の端部4bが外部導体2の端部2bのやゝ内側に位置する。従つてこの端部2bを押圧変形して絶縁体4をカシメ止めする。このような接栓座においてはカシメ部の形状を均一にすることが難しく、そして不均一なカシメ止めを行なうと接栓(コネクタ)の防水リングとの接触が悪くて防水性がそこなわれるという欠点があり、又このような一体化した筐体に金属メツキを施した場合、メツキにより端部2bが堅くなり、押圧変形する時外部導体2が割れることがあり、カシメ止め作業が難しかつた。」(同第一頁右欄第一ないし第二二行)のに対し、「本考案は上記の点を改善しようとするもので、回路部を収容する筐体と一体形成される接栓座環状外部導体の端部に、コンタクトピンを取付けた絶縁体を係止する段部を設け、この環状外部導体内に筐体内側より絶縁体を該段部に突き当るまで嵌挿し、そしてそのコンタクトピンを筐体内部に配設されるプリント基板に半田付けして固定した。」(同第一頁右欄第二三ないし第二九行)ものであること、これを具体的に別紙図面(1)の第2ないし第5図に即してみると、コンタクトピン26を中心部に固着して取り付けた絶縁体25を、接栓座環状外部導体22に、筐体21の内側から段部22aに突き当たるまで押し込み、次にプリント基板23をネジにより基板支持部24を介して筐体21の底面に取り付ける。そうすると、コンタクトピン26の延長部26bはプリント基板23の入出力端子部の孔23aに嵌合する。そして、この孔23aの周囲に半田を盛り上げて半田接合部27を形成し、コンタクトピン26とプリント基板23とを電気的かつ機械的に接続する。この半田接合により、コンタクトピン26及び絶縁体25は筐体21の接栓座環状外部導体22内に固定され、従来例の図である別紙図面(1)の第1図に示された接栓座におけるようなカシメ止め作業は必要でなく、しかもコンタクトピン26のプリント基板23への接続が完了するということになる(同第二頁左欄第二二行ないし右欄第二行参照)ことが認められる。

そして、前掲甲第三号証によると、本件考案においては、「同軸ケーブル側の接栓(コネクタ)が螺合接続する時に、コンタクトピン26が同軸ケーブル側接栓の雄型コネクタピンにより筐体21内部側への圧力を受けるが、該コンタクトピン26はプリント基板23に強固に半田接合されているため位置ずれを起こすことがない。」(同第二頁右欄第三ないし第八行)し、また、「コンタクトピンをプリント基板に半田付けで固定することにより該コンタクトピンを同時に電気的に接続することができ、作業性が非常に良い」(同第二頁右欄第三五ないし第三八行)という利点を有することが認められる。

3 右にみたところによると、本件訂正前の本件考案においては、筐体21にネジにより基板支持部24を介して取り付けられて固定されたプリント基板23に、コンタクトピン26の延長部26bを半田接合して機械的にも接続するのであるが、これは、コンタクトピンを取り付けた絶縁体を、筐体の接栓座環状外部導体内にカシメ止めで固定するという従来例の方法を採用しなかつたために、絶縁体25が接栓座環状外部導体22内に固定されず、同軸ケーブル側接栓の雄型コネクタピンによる筐体21内部側への圧力を受けることとなり、筐体21内部側でこの圧力を受け取める必要が生じたために講じられる技術手段であるというべきである。したがつて、右接続は、絶縁体25を筐体21に固定するのに、カシメ止め作業を行わないことによる必然の作業であるということができるのであり、これにより、本件公報中の前記第二頁右欄第三ないし第八行の前記記載にあるとおり、コンタクトピン26の「位置ずれ」を起こすことがないのである(この「位置ずれ」は、コンタクトピン26が機械的に接続されるプリント基板23が筐体21に固定されてさえいれば、起こることがなく、その固定態様いかんによつて位置ずれ防止の程度に差を生ずるものとは認められない。)。

そして、前掲甲第三号証によると、本件公報には、右にみた「位置ずれ」に関連する記載のほかに、プリント基板23の筐体21に対する固定の態様がどのようなものであるか、とりわけ、コンタクトピン26が複数の場合において、その長さに不揃いがあるときにどのような影響があるのかについて何らの記載もないことが認められる。本件公報の図面第2図(A)(B)、第3図(本判決別紙図面(1)参照)だけではこの点に関する理解の手がかりにならないことはいうまでもない。

4 以上みてきたところによると、本件訂正前の本件考案は、回路収容機器の同軸ケーブルの接続部の構造に関するものであり、より具体的には、従来例で行われていたようなカシメ止め作業を伴わずに、コンタクトピン26を中心部に取り付けた絶縁体25を、筐体21と一体成形した接栓座環状外部導体22に嵌挿することを目的としたものであり、その採択した構成により、本件公報の第二頁右欄第三ないし第八行及び第二頁右欄第三五ないし第三八行の前記記載(前記2参照)のような作用効果を奏するものということができる。このほかに、接栓座環状外部導体22及びこれに嵌挿されるコンタクトピン26が複数存する場合の技術的課題、特に、複数のコンタクトピン26の長さに不揃いがある場合の技術的課題が、本件訂正前の本件考案に存したものということはできない。

5 本件訂正後の本件考案についてみるに、本件訂正の審判請求の趣旨が審決認定のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

本件訂正においては、本件公報における本件訂正前の本件考案の従来例の図である第1図(別紙図面(1))を、別紙図面(2)の第1図に訂正し、これを本件訂正後の本件考案の従来例を示すものとすることが含まれているが、その従来例について、前記請求の原因三(審決の理由の要点)の1(2)のとおり、訂正された明細書(本件訂正明細書)に、「この例では、回路収容筐体1の一面に一つの接栓座環状外部導体2が一体形成され、この外部導体2内に絶縁体5を介してコンタクトピン6が嵌挿され、該コンタクトピン6と電気的接続を行なう絶縁基板3を縦形にして筐体1内に収納し、この絶縁基板3は一側面を上記絶縁体5に当接すると共に他側を筐体1に嵌着した蓋体4によつて押圧支持され、且つ絶縁基板3の他側には平衡端子7を設けることによつて、一つのコンタクトピン6と平衡端子7が直線状に接続配置されるように構成される。」との記載があり、また、右従来例の欠点として、一つの機器で同軸ケーブルから他の同軸ケーブルを分岐分配させるという機能を有していないから、分岐分配器として使用できなかつたこと、一つの機器に複数の接栓座環状外部導体2を設ける場合には、複数のコンタクトピン6を基板に接続することは、各々のコンタクトピン6の正確な位置決め等に困難があり、また、複数のコンタクトピン6を、蓋体4で押圧固定された縦形絶縁基板3で接続固定するのは事実上困難であり、したがつて、上記種々の問題を解決した複数の同軸ケーブル用接栓座を有する回路収容機器の開発が待たれているところであつた旨が記載されている。

そして、訂正された明細書(本件訂正明細書)に、請求の原因三(審決の理由の要点)の1(3)のとおり、本件考案は、その目的として「上記従来機器における種々の問題を解決した複数の同軸ケーブル用接栓座を有する回路収容機器を提案するものである。」旨、同1(6)のとおり、本件訂正後の本件考案は、その採択した構成に基づき、「プリント基板の下面から下方に垂下支持される各コンタクトピンの長さが一定となり、したがつてプリント基板は、複数のコンタクトピンの長さ不揃いによるガタツキや歪発生等の悪影響を受けることなく水平状態を維持して筐体内に取付けられることとなる。」という作用効果を奏するとの記載がある。

右にみた本件訂正明細書の記載(前記図面を含む。)によると、本件訂正後の本件考案の従来例において、絶縁体5をカシメ止めする作業はもはや不要であることが明らかであり、本件訂正後の本件考案も、本件訂正前の本件考案におけるように、コンタクトピン26を中心部に取り付けた絶縁体25を接栓座環状外部導体22に対して嵌挿するに当たつてカシメ止め作業を要しないこととすることを目的とするのではなく、むしろ、カシメ止め作業を伴わない右嵌挿は既に公知の技術であることを前提にして、右技術を採用しつつ、一つの機器に複数の接栓座を設ける場合に生じる問題点、すなわち複数のコンタクトピンを基板に接続することは、各々のコンタクトピンの正確な位置決め等に困難があり、また、複数のコンタクトピンを、蓋体で押圧固定された縦形絶縁基板で接続固定するのは事実上困難であるといつた種々の問題点を解決することを目的とし、その採択した構成により、複数のコンタクトピンの長さの不揃いによつて生じ得るガタツキや歪みの発生等の悪影響を受けることなく、水平状態を維持してプリント基板を筐体内に取り付け得るという作用効果を奏するものであるというべきである。

6 以上みてきたところによれば、本件訂正後の本件考案において目的とされたのは、一つの筐体に複数個のコンタクトピンを設ける場合に生じる可能性のあるコンタクトピン相互間の問題であつて、前記4で認定した本件訂正前の本件考案の目的とは異なつていることが明らかである。

原告は、複数のコンタクトピン26の長さの不揃いによるガタツキや歪みの発生等の悪影響を受けることなくプリント基板23を水平状態に維持することの目的及び作用効果は、カシメ止め作業を不要とするそれに付随するものであるから、本件訂正後の本件考案においても、カシメ止め作業を不要とする目的及び作用効果は依然として存在しているのであつて、本件訂正によつて、この目的及び作用効果を変えたことにはならないと主張するが、右5でみたとおり、カシメ止め作業を不要とするとの点は、本件訂正後の本件考案においては、目的、作用効果となり得べくもないのであるから、原告の右主張は理由がない。

7 してみれば、本件訂正は、実質上、実用新案登録請求の範囲を変更するものと認められるから、実用新案法第三九条第二項の規定に違反するとした審決の認定、判断は正当である。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本件考案の要旨は左のとおりである。

1 本件訂正前

回路部を収容する筐体に同軸ケーブル接続用接栓の外部導体側部材が螺合接続される接栓座環状外部導体を一体に成形し、該接栓座環状外部導体の先端部内側には段部を形成して開口を小径とし、そしてコンタクトピンを中心部に取付けた絶縁体を筐体内側から接栓座環状外部導体内にその先端段部に突き当るまで嵌挿し、該コンタクトピンの延長部を回路部が取付けられたプリント基板の端子部に固着し、該プリント基板を筐体内に支持固定することによつて該コンタクトピンを接栓座環状外部導体内に機械的に保持すると共に、かつ同時に該コンタクトピンを所望の回路に電気的に接続固定してなることを特徴とする同軸ケーブルが接続される回路収容機器。

(別紙図面(1)参照)

2 本件訂正後

回路部を収容する筐体の底部に同軸ケーブル接続用接栓の外部導体側部材が螺合接続される接栓座環状外部導体を複数個一体に成形し、

該接栓座環状外部導体のそれぞれの先端部内側には段部を形成して開口を小径とすると共に、コンタクトピンを中心部に取付けた絶縁体を筐体内側から各接栓座環状外部導体内にその先端段部に突き当るまで嵌挿し、

次いで回路部が取付けられると共に上記各接栓座環状外部導体と各々対応する位置に入出力端子部孔を穿設してなるプリント基板を基板支持部を介して上記筐体内底面に水平状に載置固定し、該プリント基板の水平載置によつて上記複数の接栓座環状外部導体内に位置する絶縁体の一端から突出するコンタクトピンの各延長部を上記プリント基板の各入出力端子部孔より基板表面に貫通突出せしめ、

上記各入出力端子部孔から基板表面に突出したコンタクトピンの延長突出部とプリント基板の端子部とを筐体内で半田接続することによつて上記コンタクトピンをそれぞれの接栓座環状外部導体内に機械的に保持すると共に、同時に該コンタクトピンを所望の回路に電気的に接続固定してなることを特徴とする同軸ケーブルが接続される回路収容機器。

(別紙図面(2)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(以下省略)

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